前章では、縦磁化について見てきました。次は、横磁化について見ていきましょう。
横磁化ベクトルは歳差運動をしている陽子と共に位相を揃えて動きます。
(新たな横磁化は歳差運動をしている陽子と共に回転する。従って、外から見ている人にとっては、横磁化は一定の速さでその方向を変え、アンテナに信号が誘導される。)
横磁化ベクトルは歳差運動をしている陽子と共に位相を揃えて動きます。
(新たな横磁化は歳差運動をしている陽子と共に回転する。従って、外から見ている人にとっては、横磁化は一定の速さでその方向を変え、アンテナに信号が誘導される。)
何が起こっているか外から見てみると、新たな磁気ベクトルはあなたの方に近づき、次に遠ざかり、また近づいてくるということを繰り返します。
そして、次のことが重要です。
磁気ベクトルは、一定の状態で動き、絶えず変化することにより、電流を誘導するのです。
既にこれと逆のことについては説明してきました:陽子の動いている電荷は電流であり、陽子の磁場を作り出します。
逆もまた真なりで、動いている磁場は電流を作り出すのです。
このことは例えば、テレビやラジオの電波によりアンテナの中でも起こっています(実際、電磁界という言葉は電流と磁気との関係を思い起こさせます)。
これまで学んだように、MRIでは動いている、あるいは変化している磁気ベクトルがあります。これもアンテナに電流を誘導し、それがMRIで使われる信号になります。
横磁化ベクトルは歳差運動をしている陽子と共に回転しながら、アンテナに近づき、遠ざかり、また近づくといったことを歳差運動の周波数で繰り返します。
そのために、MR信号も歳差運動の周波数となります。
しかし、実際上のMR信号であるこの電流から、どのようにして画像が作られるのだろうか
画像を作るためには、体のどこから出てきた信号なのかを知る必要があります。
どうしたらそれがわかるのでしょうか。
その仕掛けは実はとても簡単です。
MRIの検査をするときには患者を磁場の中に入れますが、その磁場は、患者の体のすべての部分で同じ強度の磁場になっているわけではありません。
それどころか、患者の体の断面のそれぞれの部分で異なった強度の磁場を使います。
これはどんな役割を持っているのでしょうか
陽子の歳差運動の周波数は磁場強度で決まってくるという事(バイオリンの弦の周波数がこの弦を引っ張る力で決まるように)は勉強しました。
もしも、この磁場強度が患者の体の部分部分によって異なっていれば、体のそれぞれの部分の陽子は異なった周波数で歳差運動をすることになります。
そして、歳差運動の周波数が違うことから、異なった部位から出てくるMR信号も異なった周波数になります。
これは、あなたが持っているテレビのようなものです。
あなたが台所にいて、気に入っているテレビ番組の声を聞いている時に、あなたはその声がどこから聞こえてくるのか知っています。
その声は、あなたの部屋のテレビ台のあるところからきています。
あなたが無意識にしていることは、ある音と空間の中のある場所を結び付けているのです。
MR信号についてもっと詳しく
もしも、陽子が同調して、位相を併せて回転していて、そのまま変わらなければ、先ほどの図に描かれているような信号が得られます。
しかし、実際にはこのようなことは起こりません。
RFパルスが切られると、すぐにRFパルスによって乱されていたすべてのシステムが、もとの静かで、穏やかな状態にもどります。
新たにできた横磁化は消えていき(横緩和と呼ばれる過程です)、縦磁化はもとの大きさにもどります(縦緩和と呼ばれる過程です)。
これはどういう事なのでしょうか。
縦緩和が元の大きさに戻る理由は、比較的わかりやすいのでそれから始めましょう。
それまで逆立ちしていた陽子も、人間が普通しているように、もう逆立ちして手で歩く必要はなくなっています。
RFパルスにより、高い方のエネルギーレベルに引き上げられた陽子は、低い方のエネルギーレベルに戻り、再び足で歩き始めるのです。
(RFパルスが切られた後、陽子はエネルギーの高い状態から低い状態に戻る。すなわち、再び上を向くようになる。ここでは、この様子が順をおって示されている。この結果として、縦磁化が増加し、元の大きさに戻るようになる。わかりやすくするために、陽子は位相が揃っていないように描かれていることに注意してください。)
すべての陽子が全く同時にこのように動くわけではなく、これは陽子が次から次に元の状態に戻るという連続した過程なのです。
このことは、上図に陽子の集合として表してあります。
わかりやすくするために、陽子は位相がずれている状態で表されていますが、もちろんこれは始まりの状態ではありません。
どうして、そして、どのようにして、陽子が位相を揃えて歳差運動をすることをやめるのかという事は後に説明されます。
陽子がRFパルスから受け取ったエネルギーはどうなるのでしょうか。
このエネルギーは格子と呼ばれている周囲に伝達されます。
そして、そのために、この過程が縦緩和と呼ばれるだけでなく、スピン-格子緩和とも呼ばれるのです。
上を向き、足で立って歩くように戻ることで、これらの陽子は、もはや、その前の状態のように上を向いている同数の陽子の磁気ベクトルと打ち消しあうことはなくなります。
そして、この方向の磁化、すなわち縦磁化は増加し、ついには元の大きさに戻ります。
この事を、時間と縦磁化の関係としてプロットして示すと、時間の経過と共に増加する曲線が得られます。
この曲線はT1曲線とも呼ばれます。
縦磁化が回復し、元の大きさに戻るまでの時間の事を縦緩和時間といい、これはT1とも呼ばれます。
これは、実のところはこの過程がどんな速さで行われるかという時間の定数(時定数)であり、実際にかかる時間そのものではありません。
これは、自転車レースで、一周の時間を計るのに似ています。
その時間から、レースがどのくらい時間がかかるかがわかりますが、正確な時間ではありません。
あるいは、もう少し科学的に言うと、T1というのは例えば放射性崩壊を表す時定数に匹敵するものです。
(T1は縦緩和時間の事で、熱エネルギーの交換と関係がある。)
次章では、横磁化をもう少し詳しく学びます。
よい1日を!
※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能な「MRI made easy(…well almost)」です。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
原文の複製や販売を目的としたものではありません。
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