2016年6月12日日曜日

第14章 T2強調画像はどのようにしてできるのだろうか


T2強調画像はどのようにしてできるのでしょう。
 
これを理解するのは少し難しくなります。


そこで、前のとは少し違った実験をしてみましょう。

前の実験を思い出しながら、想像してみてください。

最初に90°パルスを使います。縦磁化が傾けられ、横磁化ができます。

このパルスの後の短い時間内に何がおこるのでしょうか。

 この問いにはすぐに答えられなくてはなりません。


パルスが切られた後には、縦磁化が再び現れ始めますが、横磁化は消え始めます。


横磁化はどうして消えていくのでしょうか。


陽子の位相がそろわなくなるということについては、もう知っています。


このことが図で三つの陽子について説明されています。



(RFパルスが切られた後は、陽子は位相がばらけてくる(a-c)。
180°パルスは陽子が行く方向に歳差運動するように作用し、陽子の位相は再びそろうことになる(d-f)。)

これらの陽子は、(a)ではほとんど位相が揃っていますが、異なった歳差運動の周波数を持っているため、次第に広がっていきます(bc)。


位相の一致が失われる結果、横磁化は減少し、信号はなくなります。


ここで、ちょっと新しいことをしてみましょう。


ある時間経過した後(この時間をTEの半分の時間TE/2と呼びますが、この理由はすぐにわかります)、180°パルスを送ります。


これはどんな役割をするのでしょうか。



180°パルスはゴムの壁のような働きをします。


それは、図dでは時計方向で示されているように、陽子がちょうど反対方向を向いて歳差運動をするように、方向転換させるような作業です。

その結果、より速く歳差運動をしていた陽子が、今度はゆっくり歳差運動していた陽子の後ろになります。


その後、TE/2時間待つと、速い陽子が遅い陽子に追いつきます(図f)。

その時には、陽子はほとんど位相が揃っていて、大きい横磁化を持つようになっているので、信号は再び強くなります。

しかし、またもう少し後には、速い歳差運動の陽子が先に進み、信号は再び減少します。




これを説明すると:

同じスタートラインから出発する兎と亀の競争を考えてみてください。

 

ある時間経つと(TE/2)、兎が亀よりも先を走っています。

ここで、両者を反対方向に同じ時間走らせると、共にスタートラインに全く同時にもどります(常に一定のスピードで走ると仮定して)。

先の実験での180°パルスは、音をこだま(エコー)として反射する山のように陽子を跳ね返らせる壁のような作用をします。



そのために、その結果生じる強い信号は、エコー、あるいはスピンエコーともよばれます。



そのスピンエコーの信号が生じた後は、陽子は再び位相の一致がなくなり、これまでに習ったように、速い陽子が先に行くようになります。



普通は、その次にもう一つの180°パルス、また次の180°パルス…、というように、この実験を繰り返して行うことができます。

その結果を、時間と信号強度のグラフにして表すとのような曲線になります。



図の説明:
  • 180°パルスは、バラバラに広がっていた陽子を、再び一つに集め、その結果、TE時間後に、スピンエコーと呼ばれる強い信号が発生する。
  • 陽子はその後、また広がり始め、180°パルスでまたひとつに集められるというように、これを繰り返し行うことができる。
  • このように、一つ以上の信号、一つ以上のスピンエコーを得ることが可能である。
  • しかし、それぞれのスピンエコーは、いわゆるT2効果により、それぞれの信号強度は異なっている。
  • 各スピンエコーの信号強度を繋いだ曲線をT2曲線と呼ぶ。もしも180°パルスを使わなければ、信号強度の減弱はもっと速くおこる。
  • そのときの信号強度を示す曲線はT2スター曲線と呼ばれる。


この曲線から、180°パルスの結果生じる信号、すなわちスピンエコーは時間とともに減少しているのがわかります。

このことは、180°パルスが外部磁場に恒常的な不均一性があることによって、陽子が影響を受けた結果だけを中和しているということを示しています。

組織内部の局所磁場によって起こる一定でない不均一性については、180°パルスの前と後とで、陽子に異なった影響を与えているかもしれず、その結果を同時にならすことはできません。

従って、まだ陽子のいくつかは、同時にスタートラインに戻る大多数の陽子の後ろあるいは前に存在していることになります。

すると、エコーごとに、いわゆるT2効果のために信号強度は減少してゆきます。



このことは、次の例によって説明した方がいいかもしれません。




(バスが戻ってこないと(180°パルスないしでは)、信号の減少が組織に固有の性状(バスの乗客の状態の違い)によるものか、外部の影響(バスのスピードの違い)によるものか判断することはできない。)

乗客で満員になっている2台のバスがあります。


まず、同じスタートラインに立っています。


2つのマイクロンフォンで、それぞれのバスから聞こえてくる信号(乗客の歌声)を記録しています。

バスが同じ方向に遠ざかっていくと、一方の信号が他方よりも速く消えていくのがわかるかもしれません。


これには二つの異なった理由があります。


一台のバスの方が、もう一台のバスよりも速く走っているかもしれません(この場合、信号がなくなる原因は外部磁場の不均一性のように外部からの影響によるものといえます)。


あるいは、信号強度の違い、ここでは歌声の大きさの違いは、二つのグループの固有な性質の違い(内部の不均一)によるものかもしれません。

一方のバスにはパーティ人間だけが乗っていて、他のバスの乗客のようにはすぐに疲れてしまわないのかもしれません。



信号がなくなる本当の原因をはっきりさせるためには、ある時間TE/2後に、バスを逆戻りさせて、同じスピードで、またTE/2時間走って戻らせればいいのです。

時間2×TE/2=TE後には、バスはスタートラインに戻ります。

その時には、マイクロフォンから記録される信号強度は内部の性質、すなわち乗客がどれくらい疲れているかだけによって決まります。



もしも、外部の不均一性を中和するために180°パルスを使わなければ、陽子はRFパルスが切られたとき、より大きな磁場強度の違いを経験することになります。


そのため、陽子は早く位相が揃わなくなり、横緩和時間は短くなります。


この、より短い横緩和時間を、180°パルスの後のT2と区別するために、T2スターと呼びます。これに対応した効果をT2スター効果と呼びます。

T2スター効果は、いわゆる高速撮像シーケンスで重要になります。



バスの例では、バスが走って遠ざかる時の信号だけを記録しています。

信号の消失はこれらの状況の中で、外部(バスのスピード)と内部(乗客の疲労)の性質に依存しています。



この実験で使ったパルス系列は、90°パルスと180°パルスからなり、その結果(エコーを発生させる)スピンエコーシーケンスと呼ばれています。

このパルス系列はMRイメージングでは、非常に重要であり、パルス系列中でとりわけよくつかわれ、多くの事に利用されています。

スピンエコーシーケンスを使うと、T2強調画像のみならず、T1強調画像、プロトン密度強調画像を作ることができるという事は、覚えておくことが必要ですが、このことについては、少しあとで触れることにします。



本章はここまでです。

よい1日を!

※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能なMRI made easy(…well almost)」です。 本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。

原文の複製や販売を目的としたものではありません。

第13章 短いTR、長いTRとはどういうことだろうか


もう少し、TRの長さについて考えていきましょう。

1.5テスラ前後の外部磁場では、一般的に、
  • 500msecより小さいTRは短い
  • 1500msecよりも大きいTRは長い
と考えられます。



既に気づいているか、あるいは知っている方もいると思いますが、T2強調画像や、プロトン密度(強調)画像というものも作ることができます。



プロトン密度はスピン密度とも呼ばれ、組織コントラストに影響を与えますが、このことは極めて容易に説明できます。

すなわち、陽子(プロトン)のないところには信号はなく、陽子の多いところには多くの信号があります。このことについてはあとでさらに検討します。


要点は、ある特定のパルス系列を使うと、その結果できる画像上である組織の特徴を重要なものにしたり、重要でないものにしたりすることができるということです。





パルス系列を選ぶという事では、医師や装置の操作者はオーケストラの指揮者に例えることができます。指揮者はある楽器(パラメータ)を目立たせることで、曲(信号)の全体的な雰囲気を変えることができます。しかしながら、すべての楽器は常に出来上がった音楽の中である種の役割を果たしています。




(MRI診断を行う医師や画像を取得する技師などの操作者は、指揮者に例えることができる。あるパルス系列を選択することで、異なったいくつかのパラメーターの影響を受けるMR信号を変化させることができる。)



もう一度短い繰り返し時間(TR)の実験を振り返ってみよう



ある種のRFパルスによって縦磁化をなくすことができますが、その一方では横磁化が出現します。

この場合には、正味の磁化が90°傾けられたことになります。


従って、このRFパルスの事を90°パルスと呼びます。



正味の磁化の横方向成分はアンテナに測定できる信号を発生させます。RFパルスの直後から、緩和が始まります。

横磁化は減少し始め、縦磁化は再び現れ始めます。

総和磁化ベクトルは元の縦方向に戻り、信号は消えます。



次のRFパルスを送ると、正味の磁化は再び90°傾き、また信号が発生します。

この信号の強さは、とりわけ始めの縦磁化の大きさに依存しています。


T1曲線を覚えていますか

T1曲線は時間と縦磁化の大きさとの関係を表しています。次のRFパルスまでの時間が長いと縦磁化は完全に回復しています。従って、次のRFパルス後の信号は、最初のRFパルス後の信号と同じになります。



しかし、次のRFパルスまでの時間が短いと、そのときの縦磁化の大きさは、前の場合より小さいので、信号は違ってきます。



次の図には脳と脳脊髄液のT1曲線がプロットされています。


(脳CSF(脳脊髄液)よりも縦磁化が短く、TRが短い方が、長いTRのときよりも脳とCSFの信号強度の違いは大きくなっている。) 

時間0のときには、縦磁化は全く存在しておらず、これは最初の90°パルス直後に相当しています。

次に90°パルスを繰り返すまでの時間が長いと(TR long)、縦磁化はかなり大きく回復しています。



90°傾けられる縦磁化ベクトルの違いは非常に少なく、信号の差、すなわち脳と脳脊髄液との組織コントラストはほとんどなくなります。

しかし、次のRFパルスを短い時間TRshortの後に送ると、縦磁化の違いはかなり大きく、組織間のコントラストはもっとつくようになります。

二つの曲線の上下の間隔からわかるように、組織コントラストが最も大きいところには、ある程度の幅があります。




パルス間の時間TRが非常に長い時に、信号が同一にならないのはどうしてか


このことについては、すでに説明されています。

信号強度は多くのパラメーターから決まります。

長い時間待つと、T1は組織コントラストに影響を与えなくなりますが、問題としている組織にはまだプロトン密度に違いがあるかもしれません。

そして、上の図(脳と脳脊髄液)の実験で非常に長い時間TR待った後では、信号の差は主にプロトン密度の違いによるものになり、プロトン密度強調画像が得られます。



さあ、これでT1強調画像とプロトン密度強調画像については勉強がすみました。

本章は、ここまでです。

よい1日を!

※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能なMRI made easy(…well almost)」です。 本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。

原文の複製や販売を目的としたものではありません。


第12章 ここで実験をしてみよう(例を見て考えてみよう!)その2


もう一つ別の実験をしてみましょう。

これは、次の図に説明されています(a,b)には、異なった緩和時間を持った2つの組織、ABがあります(Aの方が、縦緩和時間、横緩和時間ともに短くなっています)。

a

ABは異なった緩和時間をもつ二つの組織である。

Frame090°パルスを送る前、Frame190°パルスの直後の状態を示している。

長い時間(TRlong)待ったあとには、二つの組織の縦磁化は完全に回復している(Frame5)。

この時間の後に二つ目の90°パルスを送ると、両組織には、最初のRFパルスの後に観察されたFrame1のと同様の大きさの横磁化ができる(Frame6)。


b

aほど長く待たないで、二つ目のRFパルスをより短い時間のところで送ると、T1の長い組織Bの縦磁化は、短いT1の組織Aほど回復していない。

従って、二つ目のRFパルス後の両組織の横磁化は異なっている(Frame5)。

このように、連続するRFパルスの間隔を変えることによって、磁化の大きさと組織の信号強度に影響を与え、変化させることができる。

90°RFパルスを送り、ある時間(TR long)待ちます(なぜTRという言葉を使うかは後で説明します)。

そして、2回目の90°パルスを送ります。


どんな事が起こるでしょうか。



時間TR longの後には、組織Aと組織Bは完全に縦磁化を回復しているので(図中Frame5)、2回目のパルスの後の横磁化は、Frame1のように両組織とも同じです。



パルスからパルスまで、あまり長く待たなければどうなるでしょう。



上の図bを見てください。

ここでは、2回目のRFパルスは、時間TR shortの後に送られます。

すなわち、Frame4のあとにRFパルスを送ります。


この時に組織Aは組織Bよりも大きな縦磁化の回復があります。

ここで、2回目の90°パルスが縦磁化を90°傾けますが、組織Aの横磁化ベクトルは、組織Bの横磁化ベクトルよりも大きくなります。


このAのベクトルの方が大きい時には、これがアンテナに近づき、ベクトルAの先端の想像上のベルはベクトルBよりも大きく、強い信号をマイク、すなわちアンテナに発生させます。


この実験の信号強度の違いは縦磁化の違いによって起こっています。

そして、これは各組織間のT1の違いによって起こっているということを意味しています。



このように、これら2つのパルスを使って、組織Aと組織Bとを区別できるのです。

このことは、たった一つの90°や、間隔の長い2つの90°パルスを使ってはできないことです(二つの90°パルスの間隔が長いと、この時間の後には、よりT1の長い組織Bも、もとの状態に戻ってしまうために、この実験では、組織Aと組織BT1の違いが役に立たないのです)。




複数のRFパルス(連続したRFパルス)を使うときには、いわゆるパルスシーケンス(パルス系列)というものを使います。

90°や180°パルスなど異なったパルスを使ったり、連続したパルスの間隔も設定できるため、多くのパルス系列ができます。


これまでの実験でみてきたように、パルス系列の選択で組織からどんな種類の信号を得るかがきまります。そのため、特定の検査のためには、パルス系列を注意して選択し、かつ記載しておくことが必要です。

これまで使ったパルス系列は、90°パルスという一種類だけのパルスを使ってできていました。


これは、ある一定の時間毎に繰り返され、この時間をTR= time to repeatと呼びます。



これまでの実験で、TRは信号にどんな影響を与えていたか


長いTRでは、二つの組織からは同じような信号が得られ、MR画像上も同じようにみえていました。


短いTRを使うと、組織のT1の違いによって決定される二つの組織間の信号の違いがありました。


そのようにT1の違いがあらわれている画像はT1強調画像と呼ばれます。

このことは、組織間の信号強度の違い、すなわち組織コントラストは主に主にそれらの組織のT1の違いによって起こっているということを意味しています。


しかしながら、組織コントラストに影響を与えるパラメーターは常に一つ以上あり、ここでの例では、T1がそのうち最も影響を与えるパラメーターになっているのです。

本章は以上です。

よい1日を!

※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能なMRI made easy(…well almost)」です。 本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。

原文の複製や販売を目的としたものではありません。

第11章 ここで実験をしてみよう(例を見て考えてみよう!)その1


次の図を見てください。二つの陽子がz軸の回りを歳差運動しています。


(RFパルスの後、高いエネルギーレベルにある陽子の数と低いエネルギーレベルにある陽子の数が同じになれば、縦磁化はなくなり、位相が一致しているために、横磁化だけが存在することになる。それは磁気ベクトルが横に90°傾けられたように見える。対応するRFパルスも90°パルスと呼ばれる。)

Z軸は磁場の方向を指しています

この図では実際には、これらのたった二つの陽子だけでなく、12個の上向きの陽子と10個の下向きの陽子があるかもしれませんが、2個だけ上向きの陽子が多いわけです。

もうわかっているように、これら二つの陽子が打ち消し合うことなく正味の磁気効果を持っているのです。



それではここで、ちょうど2個のうちの1個がエネルギーを受けて高いエネルギーの状態になれるような強さと長さをもったRFパルスを送ってみましょう。


どんなことが起こるでしょうか。


縦磁化は減少し、この実験ではゼロになります。


しかし、2個の陽子の位相は揃っているため、これまでにはなかった横磁化ができています。このことは、結果において、縦磁化ベクトルが横に90°傾いたと考えることができます。



磁化を90°傾ける”RFパルスの事を90°パルスと呼びます。


どんなRFパルスももちろん可能であり、磁化を傾ける角度により、例えば180°パルスなどと呼ばれています。




このことをさらによく理解するために、もう一つの例を見てみましょう。



((a)はRFパルスが送られる前の状態で、(b)は直後の状態である。RFパルスは縦磁化を減少させ、図のように、90°パルスの後ではゼロになる(b)。陽子は、また、位相を揃えて歳差運動をするようになり、新たな横磁化ができる(b)。RFパルスが切られた後は(c-e)、縦磁化は増加して、元に回復し、横磁化は減衰して、消えていく。2つの過程は、同時に起こるが、全く違ったメカニズムによるもので、かつ独立して起こるものである。) 

(a)では、上を向いた6個の陽子があります。

これに、このうちの3個の陽子を高いエネルギーレベルに上げるようなRFパルスを送ります(b)。

その結果:縦磁化はなくなり、横磁化だけが存在しています(ここでも、また90°パルスを使ったわけです)。


RFパルスを切った後には、何が起こるのでしょうか。


2つのことが起こります。

  1. 陽子は低いエネルギーレベルに戻り、
  2. 位相の統一が失われます。
この2つの過程は同時におこり、しかも独立して起こっているということに注意しておくことが重要です。


わかりやすくするために、順をおって、何が起こっているか見てみましょう。

まず、縦磁化について考えます。



(c)では、一つの陽子が低いエネルギー状態に戻り、4個の陽子が上を向き、2個が下を向いています。

正味の効果としては、今”2の縦磁化があることになっています。



それから、次の1個の陽子が上を向き、5個の陽子が上向き、1個が下向きになり、正味の縦磁化は”4となります(図(d))。



次の陽子が上を向くと、縦磁化は”6になります(図(e))。

同時に横磁化は減少します(図c-e)。

どうしてでしょうか。


あなたはこれに答えられなくてはなりません。

答えは、歳差運動をしている陽子の位相が揃わなくなってくるからです。



(b)ではすべての陽子は同じ方向を向いていますが、その後、位相は次第に揃わなくなり、結局ばらばらに広がった状態になります(図c-e)。







次の図では、縦および横磁化ベクトルのみが先ほどの図と同様に時間毎に描かれています。

この2つのベクトルは加えられて総和ベクトルとなります。







忘れてはいないでしょうが、ベクトルはある大きさと方向をもった力を表しています。

異なった方向を向いているベクトルを足し合わせると、それぞれの元の方向での力の大きさにより、どこか両者の間の方向を向いたベクトル(総和ベクトル)ができます。


この総和ベクトルは、一般的に組織の全磁気モーメントを表しているので、非常に重要であり、縦および横磁化の2つのベクトルをそれぞれ別々に表すかわりに使われます。


総和された磁気ベクトルは、緩和の間に縦方向に戻り、終わりには縦磁化と同じになります。



総和ベクトルまたは磁気モーメントを含めた、この全システムが実際に歳差運動をしているということは忘れてはならないことであり、総和ベクトルは実際にらせん状に動いています(上図f)。



  • この図では、先の図の実験から、縦および横磁化ベクトルだけを描いたもので
  • a)は、RFパルスが送られる前で縦磁化だけが存在します
  • bは、90°パルスの直後には縦磁化はなくなり、新たに横磁化ができている状態です。そして、この横磁化ベクトルは回転しています
  • 時間の経過と共に、この横磁化は減少し、縦磁化が増加してくるのが(c-d)です。
  • そして、横磁化がなく、元の大きさの縦磁化だけの出発点のところに再び戻りますe)。横および縦磁化ベクトルは総和ベクトルに足し合わされます
  • この総和ベクトルはらせん状に動き(f)、横(x-y)の平面(縦磁化のない)から、z軸に沿った最終の位置(横磁化のない)に方向を変えていきます


思い出していただきたいのですが、変化している磁力または磁気モーメントは電流を誘導し、それが、私たちが受信するMRで使う信号になります。この信号を受信することで、体の断面の情報を得るわけです。


次の図のように、どこかにアンテナをたてると、そこに描かれているように信号を受信できます。


(外部から観察している人にとっては、先の図のfの総和ベクトルは、らせん状の動きをしながら、恒常的にその方向と大きさを変える。総和ベクトルは、アンテナに電流、すなわちMR信号を誘導する。この信号はRFパルスがきられた直後が最大であり、その後減少する。)
 

アンテナがマイクロフォンで、総和された磁気ベクトルの先端にベルがついていると考えるとわかりやすいでしょう。ベクトルがマイクから遠ざかると、音が小さくなります。

しかし、総和ベクトルは歳差運動の周波数で回転しているので、音の周波数は一定です。



この種の信号をFree Induction Decay(自由誘導減衰)という言葉から、FID信号と呼びます

 (図で示した実験ででてくる信号は、時間とともに消滅してゆくが、一定の周波数を保っている。このタイプの信号はFID信号と呼ばれる。)


90°RFパルスの後は良好な強い信号が得られるという事は(先の例では、ベルがマイクに非常に近づくように)容易に想像できます。


今までのところで、磁化ベクトルがアンテナに電流を誘導することによって、直接MRI信号と信号強度を決定していることは明らかです。


T1T2曲線の軸について、とか横磁化とかの言葉を使う代わりに、信号信号強度という言葉を使うこともできるのです。

そのほうが、これから読み進めていくのにはわかりやすいと思います。


本章はここまでです。

よい1日を!

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第10章 何がT2に影響を与えるのか


T2緩和は陽子の位相がずれていくときに起こります。

それには、
  • 外部磁場の不均一
  • 組織間の局所磁場の不均一
という二つの原因があります。


水の分子は非常に早く動き回るために、その局所磁場も早く波動し、お互いに一種の平均化がおこり、場所によっての大きな正味の内部磁場の違いはありません。


そして、もしも組織内部の磁場強度に大きな差がなければ、陽子は長い時間歩調を揃えたままでおり、T2は長くなります。



大きな分子を含んでいるような純水でない液体は、局所磁場に大きな差が生じます。

大きな分子はあまり早く動き回らないので、その局所磁場もお互いにあまり打ち消し合いません。


このような局所磁場の大きな違いは、結果として歳差運動の周波数に大きな差を生じ、陽子は早く位相がずれることになり、T2は短くなります。



このことは次のような例で説明されます:窪みの多い道で車を走らせていると思ってください。ゆっくり走っているときは、窪みがあるたびに上下にジャンプするでしょう。周囲の変化(磁場の違い)が非常に大きく影響しているわけです。



非常に速く走っている時は、ひとつひとつの窪みについて感じることはありません。

大きな影響を受ける前に普通の状態の道に戻っています。


このように、窪みの影響は平均化され、周囲の変化(磁場の違い)に影響されることがあまりないことになります。


こういったことは私たちが知りたいこととどんな関係があるのでしょうか。

これらすべての過程が、MR画像が最終的にどう見えるかということに影響するのです。



簡単に復習しておきましょう

  • T1T2よりも長い
  • T1は磁場強度で変化し、磁場が強いほど、T1は長くなる
  • 水のT1は長く、脂肪のT1は短い
  • 水のT2は大きな分子を含んだ純水でない水よりも長い



本章は以上です。
次章では、例を用いた実験をしていきます。

よい1日を!

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第9章 T1は何によって影響されるのか


実際のところ、T1は組織の組成、構造、そして周囲の環境に依存しています。


これまでに説明したように、T1緩和は陽子から周囲の格子に渡される、熱エネルギーの交換と何らかの関係があります。


歳差運動をしている陽子は恒常的に方向を変え、ラーモア周波数で恒常的に波動する磁場を持っています。


格子もまた、その固有の磁場を持っています。


陽子は緩和するために光子にエネルギーを渡そうとします。


これは、格子の磁場の波動の周波数がラーモア周波数に近い時に非常に効果的に行われます。



格子が純粋な液体/水からできている時には、小さな水分子が非常に速く動くので、陽子はそのエネルギーを追い払うことがなかなかできません。


そして、陽子(高いエネルギーレベルにある)は、そのエネルギーを光子に素早く渡すことができないために、ゆっくりと低いエネルギーレベルに戻り、縦方向に並ぶようになります。


このように、縦磁化が再び現れるのには時間がかかり、このことは液体/水は長いT1を持っているということを意味しています。



格子が歳差運動をしている陽子のラーモア周波数に近い周波数で動き、波動している磁場をもつ中位の分子からできている時には、エネルギーの移行はずっと早くおこり、T1は短くなります。



このことは再びサンドイッチとレースカーの例(第5章)で説明することができます。

サンドイッチを車から車に渡すには、両方の車のスピードが同じときにたやすく、効率的なわけです。

スピードが違っていれば、エネルギーの受け渡しはあまり効率的ではなくなります。



どうして脂肪のT1は短いのか


脂肪酸の末端の炭素結合はラーモア周波数に近い周波数を持つために効果的なエネルギー交換が行えるのです。



それでは、磁場が強いほどT1が長くなるのは何故なのか


強い磁場の中ほど、陽子がそれに逆らって並ぶのにより多くのエネルギーを必要とするということは簡単に想像できます。


すると、これらの陽子が格子に渡すべきエネルギーも多くなり、少ないエネルギーを渡すよりも長い時間がかかります。


この説明は、論理的に思えるかもしれませんが間違っています。


最初に触れたように、歳差運動の周波数はラーモア方程式で示されているように磁場強度に依存しています。


磁場強度が強ければ、陽子はより速く歳差運動をします。


そして、歳差運動が速いと、もっとゆっくりと波動している磁場をもつ格子にエネルギーを渡すのにより多くの問題が出てくるのです。

本章は以上です。
次章では、T2への影響について考えていきましょう。

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