前回までで、陽子が外部磁場に置かれた時の状態を説明してきました。今回はこの陽子の集合についてもっと詳しく見ていきましょう。
第2章までのところで、外部磁場があるところで、陽子はただ寝そべっているわけではなく、磁場の方向か、あるいはそれと正反対の方向を向いて並んでいるということをみてきました。
ここから新しい豆知識です。
実は、それどころか、陽子はある一定の回転運動をしています。
この回転運動のことを歳差運動(プリセッション)と呼んでいます。
歳差運動とはどんな種類の運動なのか
回転しているコマを想像してみてください。
それをたたくと、コマはぐらつき始めるか、ころがり回ります。
でも、倒れてそのまま止まったりはしません。
この歳差運動の間にコマの軸は円錐をつくりながら回転します。
(回っているコマは、たたかれると(あるいは時間が経つと)、ぐらぐらした動きをする。強い磁場の中の陽子もこのような動きをしており、それは歳差運動と呼ばれている。)
ここに出てくる歳差運動というのはとても速い動きなので、それを描くことは難しいものです。
上記の絵は、歳差運動を簡単に考えるために、まるで、ちょうど良い特別な瞬間を高速のフラッシュをたいて撮影した写真のように”止まっている状態”の絵を描いています。
その理由はあとからわかると思いますが、陽子の歳差運動がどれほど速いかを知ることは重要なことです。
この速さは、歳差運動の周波数として、すなわち、一秒間に何回回転するかということで測ることができます。
この歳差運動の周波数は一定ではなく、陽子が置かれている磁場の強さによって決まります。
磁場強度が大きいほど、歳差運動の回転は多くなり、歳差運動の周波数は高くなります。
これはバイオリンの弦に似ています:弦に加わる力が強いほど、その周波数は高くなります。
この歳差運動の周波数を正確に計算することは可能であり、また、必要なことです。
これは次のようなラーモア方程式と呼ばれる式で計算されます。
ω0(読み:オメガ ゼロ):歳差運動の周波数(HzあるいはMHz)
B0(読み:ビー ゼロ):外部磁場の強さ(T;テスラ)
λ(読み:ラムダ):磁気回転比という定数
この方程式は、磁場強度が増加するのに従って、歳差運動の周波数が高くなるということを示しています。
厳密に言えば、両者の関係は磁気回転比(γ)によって決定されることになります。
この磁気回転比は物質によって異なっています(例えば、水素の陽子ではこの値は42.5MHz/Tになります)。
これまでに学んだこと
- 陽子には陽電荷があり、スピンをもっているために恒常的に動いている。
- この動く電荷は、電流そのものであり、電流は常に磁場を発生させる。
- 従って、すべての陽子はそれぞれ固有の磁場を持っており、小さな棒磁石のように考えられる。
- 患者がMRの磁石の中に入った時には、陽子は小さな磁石であるため、外部磁場に沿って並ぶことになる。
- その時に、陽子は磁場の方向か、あるいはそれと正反対の方向かの二通りの並び方をしている。そこでは、エネルギーをより必要としない状態のものの方が多くなるため、逆立ちして手で歩く陽子よりも足で立って歩く陽子の方が少し多くなっている。
- 陽子は、ちょうどコマが地球の磁力線に沿って回るように、磁場の磁力線に沿って歳差運動する。
- 歳差運動の周波数はラーモア方程式で計算され、磁場が強い程、高い周波数になる。
この歳差運動の周波数がどうして重要なのでしょうか。それは磁気共鳴画像(MRI)の共鳴ということと関係があります。しかし、このことを理解するためには、もう少し時間がかかります。
理解を進めやすくするために、次回は座標系を取り入れていきます。
よい1日を!
※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能な「MRI made easy(…well almost)」です。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。なお、原作の複製や販売を目的としたものではありません。
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