このことを理解するために、少し時間をかけて解説していきます。
まずは、座標系という概念を取り入れてみましょう。
わかりやすくするために(そして、図に表しやすくするために)、学校で習った座標系を使うようにしてみましょう。
見て分かるように、z軸は磁場の方向になっています。
このように、z軸で磁場の方向を示すことができます。
そこで、これからは図の中に外部の磁場の磁石は描かなくてもよいことになります。
(座標系を使うと磁場の中での陽子の動きが描きやすくなる。そして、外部の磁石を使わなくてよくなる。)
これからは陽子はベクトルとして小さな矢印で描くことにします。
これまでの章を読んでいただけた方は、多分、覚えているとは思いますが、ベクトルはその大きさで力を表しており、矢印の向きでその力の方向を表しています。ベクトルで示される力はこの説明の中では磁力を意味しています。
次の図(左)を見てください。
9個の陽子(ベクトル)は上を向いて、外部磁場と同じ方向で歳差運動をしています。
そして、5個の陽子は下を向いて外部磁場と反対方向で歳差運動をしています。
これまで述べてきたとおり、図で見ているものは、ある一瞬の状態を描いたものです。
ちょっと後の状態では、陽子は歳差運動をしているために異なった位置にあります。
実際にはその歳差運動は非常に早く、水素の陽子の歳差運動の周波数は1テスラ(1T)の磁場強度のもとでは42MHz程度になっています。このことは、陽子がアイスクリームコーンの周りを1秒間に4200万回以上もまわっていることを意味しています。
そして、あなたの体のなかには、この速さで回転している陽子が無数にあるのです。
ある瞬間に一つの陽子がある方向を向いている時(上図(左)陽子A)、もう一つの陽子がちょうど反対方向を向いていると想像してみてください(上図(左)陽子A’)。その結果は非常に重要です。
相対する磁力は二人の人がロープを両端から引っ張っているように、お互い打ち消しあいます。
結局、下を向いているすべての陽子には対応する上向きの陽子が存在し、磁石としての効果を打ち消しあうことになります。
しかし、すでに見てきたとおり、下向きの陽子よりも上向きの陽子の方が多く、これらの磁力は打ち消されません。
従って、実際は上向きの陽子がいくつか(ここでは4個になっています)残ることになります。
下向きの5個の陽子は上向きの同じ数の陽子の磁力を打ち消しあうため、実際には、反対方向に対応するもののない4個の陽子を考えるだけでよいことになります(上図右)。
しかし、上向きと下向きの対応し合った磁力だけが打ち消しあうように作用しているわけではありません。
上を向いて残っている陽子は歳差運動をしていますが、ある陽子が左を向いていると、それに対応して右を向いているものがあり、また、前を向いている陽子には、それに対応する後ろを向いている陽子があるというようになっています(例えば、下の図の中で対応し合っている陽子はAとA’、BとB’で示されています)。
図の説明(ここから)
- 矢印すなわちベクトルで表されている陽子Aの磁力は、二つの要素からできていると考えることができます。一つは、z軸方向で上向きの、もう一つはy軸方向のコンポーネントです。
- Y軸方向のコンポーネントはy軸の反対方向のコンポーネントをもつ陽子A’によって打ち消されます。
- 同様のことが他の陽子についてもあてはまります。
- 例えば、BとB’では、それぞれのx軸方向のコンポーネントが打ち消しあっています。
- x-y平面上のベクトルと違って、z軸方向では、すべて同じ上向きであり、総和された、上を向いた一つのベクトルとして表されます。
図の説明(ここまで)
本文に戻ります。
このことは、残っている陽子の、相対する磁力はこのような方向で打ち消しあうことを意味しています。このことは、外部磁場の方向であるz軸方向以外のすべての方向について当てはまります。
Z軸の方向では、ロープの同じ端をみんなで引っ張っているように、それぞれの陽子の磁石を表している各ベクトルは合計されます。
結果として、実際上は外部磁場の方向の一つのベクトルとして表すことができるようになり(上図のz軸上の黄色矢印)、このベクトルは上向きのそれぞれの陽子の磁気ベクトルの総和を示しています。
さて、このことは何を意味しているのでしょうか。
それは、患者がMR装置の磁石の中に入ると、患者自身が磁石になる、すなわち、固有の磁場を持つということなのです。
どうしてか、ですって?
それは、お互いに打ち消しあわずに残っている陽子のベクトルが総和となって存在するからです。
(強い外部磁場の中に入ると、患者自身が磁石になり、新しい磁気ベクトルができる。
この新しい磁気ベクトルは外部磁場の方向を向いている。)
この外部磁場の方向に沿った、言い方を換えれば、縦方向の磁化は、縦磁化ともよばれています。
これまでみてきたように、磁石の中に入った患者には、結局、外部磁場の方向を向いて、磁力線に沿った新しい磁気ベクトルができることになります。
これは、縦方向のベクトルとして描かれます。
そして、実際には、この新しい磁気ベクトルが、MRIの信号を得るために使われます。
この患者の磁化を測定できるとよいのですが、ここで、一つ問題があります。
この磁力は、外部磁場と同じ方向を向いているために、測定ができないのです。
このことを例えて説明すると次のようになります。
(外部磁場と同じ方向の磁化は測定することができない。そのためには、外部磁場に対して横方向の磁化が必要となる。)
あなたは河を下っているボートに乗っていると思ってください。
あなたは手にホースを持って河に水をまいています。
岸からあなたをみている人にとっては、あなたがどれくらい水をまいたかわかりません(このことは、もとの外部磁場にどれだけ新しい磁化が加わったかということに相当します)。
しかし、あなたがホースを岸に向ければ(新たに加わった磁場の方向を変えるという意味ですが)、岸から見ている人によってその水は直接集められ、測定できるようになります。
このことからわかることは、外部磁場と同じ方向の(縦方向といった方がよいのですが)磁化は、直接測ることができないということです。
従って、この磁化を測定するためには、外部磁場に対して、縦方向ではなく、横方向の磁化が必要となってきます。
これまでに学んだこと
ここまでお読みいただきありがとうございました。
でも、どこかに行ってしまう前に、次の短い要約をちょっと読んでみてください。
そして、また引き続き読んでいただける時には、もう一度この要約を読むことから始めてください。
- 陽子は陽電荷を持っていて、回転している(スピンをもっている)。
- そのために、磁場を持ち、小さな棒磁石とみなされる。
- 陽子を強い外部磁場の中に入れると、外部磁場の方向と、あるものは平行に(上向きに)、あるものは逆方向に(下向きに)並ぶ。
- 陽子はただそこで横たわっているわけではなく、磁場の方向を中心に歳差運動をしている。
- そして、ラーモア方程式で数字的に示されるように、磁場強度が大きい程、歳差運動の周波数は高い。
- 磁場と逆方向の陽子と並行の陽子は、お互いの力を打ち消しあう。
- しかし、エネルギーレベルの低い、磁場と並行の(上向きの)陽子の方が数が多く、磁力が打ち消されていない陽子が残っている。
- これらの陽子はすべて上向きであり、外部磁場の方向に総和される。
- 従って、患者がMRの磁石の中に入った時には、患者自身が、MR装置の磁石がもつ外部磁場に対して縦方向の、固有の磁場を持つことになる。しかしながら、この患者自身の磁場は縦方向の磁場のため、直接測定することはできない。
よい1日を!
※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能な「MRI made easy(…well almost)」です。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
原文の複製や販売を目的としたものではありません。
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