本章を読み始める前に、第4章の最後のこれまでに学んだことを読み返してみます。
- 陽子は陽電荷を持っていて、回転している(スピンをもっている)。
- そのために、磁場を持ち、小さな棒磁石とみなされる。
- 陽子を強い外部磁場の中に入れると、外部磁場の方向と、あるものは平行に(上向きに)、あるものは逆方向に(下向きに)並ぶ。
- 陽子はただそこで横たわっているわけではなく、磁場の方向を中心に歳差運動をしている。
- そして、ラーモア方程式で数字的に示されるように、磁場強度が大きい程、歳差運動の周波数は高い。
- 磁場と逆方向の陽子と並行の陽子は、お互いの力を打ち消しあう。
- しかし、エネルギーレベルの低い、磁場と並行の(上向きの)陽子の方が数が多く、磁力が打ち消されていない陽子が残っている。
- これらの陽子はすべて上向きであり、外部磁場の方向に総和される。
- 従って、患者がMRの磁石の中に入った時には、患者自身が、MR装置の磁石がもつ外部磁場に対して縦方向の、固有の磁場を持つことになる。しかしながら、この患者自身の磁場は縦方向の磁場のため、直接測定することはできない。
患者が磁石の中に入った後は何が起こるのだろうか
患者または何かの被写体が磁石の中に入った後、ラジオ波を送ります。
ラジオ波という名称はラジオなどの無線放送で使われているような周波数域にある電磁波のことを指しています。
実際に患者に送る電磁波は、長く持続したものではなく、短時間に集中したもので、ラジオ周波数パルス(RFパルス)と呼ばれています。
このRFパルスの目的は、外部磁場の方向に並んで、なんの障害もなく歳差運動をしている陽子の邪魔をすることです。
でも、どんなRFパルスも陽子が並んでいるのを乱すことができるわけではありません。
そのためには、陽子とエネルギーの交換ができる、ある特別なRFパルスが必要なのです。
このことは、誰かがあなたのことを見ている状態に似ています。
あなたはそれに気が付かないかもしれません。
それはエネルギーの交換がないからで、あなたは位置や並び方を変えたりしません。
しかし、誰かがあなたを蹴飛ばして、あなたとエネルギーの交換をしたら、あなたのそれまでの状態は乱されるでしょう。
それと同じように、それまで陽子が並んでいた状態を変えるためには、陽子とエネルギーの交換ができるある種のRFパルスが必要になるのです。
あなたはレース場を走る車に乗っていて、隣の車線を走っている人が、エネルギーを交換するために、あなたにサンドイッチを渡そうとしているところを想像してみてください。
しかし、RFパルスはいつ陽子とエネルギーの交換ができるのでしょうか。
そのためには、RFパルスは陽子と同じ周波数、すなわち同じスピードをもっていなくてはなりません。
このエネルギーの伝達は、両方の車が同じスピードで走っている時、言い換えればレース場を同じ周波数で回っている時に可能になるのです。
スピードまたは周波数が違うと、少ししか、あるいは全く、エネルギーを伝達することはできません。
(陽子とラジオ周波数(RF)パルスが同じ周波数である場合には、
エネルギーの交換が可能である。)
エネルギーの交換が可能である。)
どの位のスピードを、より正確には、どの程度の周波数を陽子はもっているのか
陽子はラーモア方程式で計算される周波数で歳差運動をしています。
従って、ラーモア方程式から、私たちが使うRFパルスの必要な周波数がわかります。
RFパルスと陽子が同じ周波数の時にだけ、陽子はラジオ波からエネルギーを受け取ることができ、この現象を共鳴(resonance)と呼びます。
共鳴という言葉は音叉を使うことで説明できます。
今あなたは異なった種類の音叉、例えばイ音、ホ音、ニ音に調律されている音叉を持って部屋の中にいると思ってください。
そこで、誰かがイ音の周波数の音叉をならしながら部屋に入ってきます。
部屋にある全部の音叉の中から、突然イ音の音叉だけがエネルギーを受け取って、振動を始め、音が出てきます。
これが共鳴という現象なのです。
このRFパルスを受けた時、陽子には何が起こるのか
陽子の中には、エネルギーを受け取るものがあり、低いエネルギーレベルから高いエネルギーレベルに移ります。
(RFパルスは陽子とエネルギーの交換を行う(a)。いくつかの陽子は高いエネルギーレベルになって、図中で下向きになる(b)。結果として、下向きの陽子が同数の上向きの陽子を”中和”するために、z軸に沿った磁化は減少する。)
(RFパルスは陽子とエネルギーの交換を行う(a)。いくつかの陽子は高いエネルギーレベルになって、図中で下向きになる(b)。結果として、下向きの陽子が同数の上向きの陽子を”中和”するために、z軸に沿った磁化は減少する。)
足で立って歩いていた陽子の中から逆立ちをして手で歩きだすものが出てくるのです。
そして、この事は磁石の中にいる患者の磁化に影響を与えます。
上の図のように、RFパルスが送られた後は、上を向いている合計6この陽子の中から、2個の陽子が下を向きます。
その結果、この2個の陽子は上を向いている同数の陽子の磁力と打ち消しあいます。
そのために、実質上、縦方向の磁化は6個から2個に減少します。
しかし、その他に何かが起こります。
ラジオ波の形はどのようなものだったか覚えていますか。
次の図を見てください;それはむちに似ています。
そして、ラジオ波はむちのような作用ももっています。
ラジオ波は歳差運動をしている陽子を同調させることができ、このことには、もう一つの重要な効果があります。
陽子がばらばらに左を向いたり、右を向いたり、後ろを向いたり、前を向いたりしている時は、これらの方向の磁力は打ち消しあっています。
RFパルスによって、陽子はもはや勝手な方向を向かず、足並みを揃え、同調して動きます。
陽子の位相が揃っているということです。
この状態では、陽子は同時に同じ方向を向き、磁気ベクトルはこの方向に足し合わされます。
この結果、磁気ベクトルは歳差運動をしている陽子が向いている方向、すなわち、横方向を向きます(上図の細い黄色矢印)。
このことから、このベクトルは横磁化と呼ばれているのです。
船の乗客がデッキのいろいろな場所にばらばらに分散しているところを想像してみましょう。
この時、船は正常な位置にあります。
そこで、すべての乗客が歩調を併せて、手すりの周りを歩きます。どうなると思いますか。
船は乗客がいる側に傾きます。
新しい力ができ、船が傾くことで、その力が目に見えるようになったのです。
上で説明したように、RFパルスは横磁化を作り出します。
この新しく作り出された磁気ベクトルは本来じっとしてはおらず、歳差運動をしている陽子と調和して、歳差運動の周波数で動きます。
新しく学んだことはどんなことだっただろうか
次の図を使って繰り返してみましょう!
- 強い外部磁場の中では、患者内に外部磁場の方向に沿った新しいベクトルができる(a)。
- RFパルスを送ると、縦磁化が減少するとともに、新たな横磁化ができる(b)。
- RFパルスによっては、縦磁化が全くなくなってしまうこともある(c)。
患者がMR装置の中に入った時、陽子は装置の磁場に平行、あるいは逆平行に整列する。
患者内にできる磁場は外部磁場に対して縦方向になる(図a)。
陽子の歳差運動の周波数と同じRFパルスを送ると二つのことが起こる:
-いくつかの陽子はエネルギーを受け取って、逆立ちして手で歩くようになり、その結果全体の縦磁化の大きさは減少する。
-陽子は同調し、位相を揃えて歳差運動をし始める。
そこで、それぞれの陽子ベクトルは外部磁場に対して横の方向に足し合わされ、横磁化ができる。
まとめると:RFパルスは縦磁化を減少させ、新たな横磁化を作り出す。
次章もお楽しみに!よい1日を!
※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能な「MRI made easy(…well almost)」です。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
原文の複製や販売を目的としたものではありません。
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