次の図を見てください。二つの陽子がz軸の回りを歳差運動しています。
(RFパルスの後、高いエネルギーレベルにある陽子の数と低いエネルギーレベルにある陽子の数が同じになれば、縦磁化はなくなり、位相が一致しているために、横磁化だけが存在することになる。それは磁気ベクトルが横に90°”傾けられた”ように見える。対応するRFパルスも90°パルスと呼ばれる。)
Z軸は磁場の方向を指しています。
この図では実際には、これらのたった二つの陽子だけでなく、12個の上向きの陽子と10個の下向きの陽子があるかもしれませんが、2個だけ上向きの陽子が多いわけです。
もうわかっているように、これら二つの陽子が打ち消し合うことなく正味の磁気効果を持っているのです。
それではここで、ちょうど2個のうちの1個がエネルギーを受けて高いエネルギーの状態になれるような強さと長さをもったRFパルスを送ってみましょう。
どんなことが起こるでしょうか。
縦磁化は減少し、この実験ではゼロになります。
しかし、2個の陽子の位相は揃っているため、これまでにはなかった横磁化ができています。このことは、結果において、縦磁化ベクトルが横に90°傾いたと考えることができます。
磁化を90°”傾ける”RFパルスの事を90°パルスと呼びます。
どんなRFパルスももちろん可能であり、磁化を傾ける角度により、例えば180°パルスなどと呼ばれています。
このことをさらによく理解するために、もう一つの例を見てみましょう。
((a)はRFパルスが送られる前の状態で、(b)は直後の状態である。RFパルスは縦磁化を減少させ、図のように、90°パルスの後ではゼロになる(b)。陽子は、また、位相を揃えて歳差運動をするようになり、新たな横磁化ができる(b)。RFパルスが切られた後は(c-e)、縦磁化は増加して、元に回復し、横磁化は減衰して、消えていく。2つの過程は、同時に起こるが、全く違ったメカニズムによるもので、かつ独立して起こるものである。)
図(a)では、上を向いた6個の陽子があります。
これに、このうちの3個の陽子を高いエネルギーレベルに上げるようなRFパルスを送ります(b)。
その結果:縦磁化はなくなり、横磁化だけが存在しています(ここでも、また90°パルスを使ったわけです)。
RFパルスを切った後には、何が起こるのでしょうか。
2つのことが起こります。
- 陽子は低いエネルギーレベルに戻り、
- 位相の統一が失われます。
この2つの過程は同時におこり、しかも独立して起こっているということに注意しておくことが重要です。
わかりやすくするために、順をおって、何が起こっているか見てみましょう。
まず、縦磁化について考えます。
図(c)では、一つの陽子が低いエネルギー状態に戻り、4個の陽子が上を向き、2個が下を向いています。
正味の効果としては、今”2個”の縦磁化があることになっています。
それから、次の1個の陽子が上を向き、5個の陽子が上向き、1個が下向きになり、正味の縦磁化は”4個”となります(図(d))。
次の陽子が上を向くと、縦磁化は”6個”になります(図(e))。
同時に横磁化は減少します(図c-e)。
どうしてでしょうか。
あなたはこれに答えられなくてはなりません。
答えは、歳差運動をしている陽子の位相が揃わなくなってくるからです。
図(b)ではすべての陽子は同じ方向を向いていますが、その後、位相は次第に揃わなくなり、結局ばらばらに広がった状態になります(図c-e)。
次の図では、縦および横磁化ベクトルのみが先ほどの図と同様に時間毎に描かれています。
この2つのベクトルは加えられて総和ベクトルとなります。
忘れてはいないでしょうが、ベクトルはある大きさと方向をもった力を表しています。
異なった方向を向いているベクトルを足し合わせると、それぞれの元の方向での力の大きさにより、どこか両者の間の方向を向いたベクトル(総和ベクトル)ができます。
この総和ベクトルは、一般的に組織の全磁気モーメントを表しているので、非常に重要であり、縦および横磁化の2つのベクトルをそれぞれ別々に表すかわりに使われます。
総和された磁気ベクトルは、緩和の間に縦方向に戻り、終わりには縦磁化と同じになります。
総和ベクトルまたは磁気モーメントを含めた、この全システムが実際に歳差運動をしているということは忘れてはならないことであり、総和ベクトルは実際にらせん状に動いています(上図f)。
- この図では、先の図の実験から、縦および横磁化ベクトルだけを描いたものです。
- (a)は、RFパルスが送られる前で縦磁化だけが存在します。
- (b)は、90°パルスの直後には縦磁化はなくなり、新たに横磁化ができている状態です。そして、この横磁化ベクトルは回転しています。
- 時間の経過と共に、この横磁化は減少し、縦磁化が増加してくるのが(c-d)です。
- そして、横磁化がなく、元の大きさの縦磁化だけの出発点のところに再び戻ります(e)。横および縦磁化ベクトルは総和ベクトルに足し合わされます。
- この総和ベクトルはらせん状に動き(f)、横(x-y)の平面(縦磁化のない)から、z軸に沿った最終の位置(横磁化のない)に方向を変えていきます。
思い出していただきたいのですが、変化している磁力または磁気モーメントは電流を誘導し、それが、私たちが受信するMRで使う信号になります。この信号を受信することで、体の断面の情報を得るわけです。
次の図のように、どこかにアンテナをたてると、そこに描かれているように信号を受信できます。
(外部から観察している人にとっては、先の図のfの総和ベクトルは、らせん状の動きをしながら、恒常的にその方向と大きさを変える。総和ベクトルは、アンテナに電流、すなわちMR信号を誘導する。この信号はRFパルスがきられた直後が最大であり、その後減少する。)
アンテナがマイクロフォンで、総和された磁気ベクトルの先端にベルがついていると考えるとわかりやすいでしょう。ベクトルがマイクから遠ざかると、音が小さくなります。
しかし、総和ベクトルは歳差運動の周波数で回転しているので、音の周波数は一定です。
この種の信号をFree Induction Decay(自由誘導減衰)という言葉から、FID信号と呼びます。
(図で示した実験ででてくる信号は、時間とともに消滅してゆくが、一定の周波数を保っている。このタイプの信号はFID信号と呼ばれる。)
(図で示した実験ででてくる信号は、時間とともに消滅してゆくが、一定の周波数を保っている。このタイプの信号はFID信号と呼ばれる。)
90°RFパルスの後は良好な強い信号が得られるという事は(先の例では、ベルがマイクに非常に近づくように)容易に想像できます。
今までのところで、磁化ベクトルがアンテナに電流を誘導することによって、直接MRI信号と信号強度を決定していることは明らかです。
T1、T2曲線の軸について、”縦”とか”横磁化”とかの言葉を使う代わりに、”信号”や”信号強度”という言葉を使うこともできるのです。
そのほうが、これから読み進めていくのにはわかりやすいと思います。
本章はここまでです。
よい1日を!
※「やさしいMRI」の参考文献は原文がインターネットに公開されており、誰でも閲覧可能な「MRI made easy(…well almost)」です。
本ブログは、この原文を参考に記述しています。図も引用させていただいております。
原文の複製や販売を目的としたものではありません。
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